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PAST COMMENT |
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●1999年3月記
1997年9月、ぼくはWorld Wide Web上に、みなさんがご覧になっているこの"Outdoor Basic Technic"というサイトを立ち上げて、公開しました。
ぼくは高校時代から20年以上、登山やオートバイツーリング、エンデューロレースなどを楽しんできました。そして、いつのまにかそういったアウトドア関係のことを紹介するライターという職業に就いていました。
何冊か本を出し、たくさん記事も書きましたが、雑誌や出版社のカラーや思惑などに合わせた企画物は、いつもどこかに制約があって、食い足りなさというか 書き足りなさを感じていました。そのうち、自分の思うままに書いたものを出版してみたいという欲求が募ってきました。
WWWにホームページを立ち上げる数年前、ひょんなきっかけから、SEGAで大きなゲーム制作のプロジェクトに関わることになりました。それまでも、コ ンピュータやインターネットには興味はあったのですが(とくにAIなどのサイエンスの側面)、本格的にそれに取り組むというところまでは至ってませんでし た。
SEGAで、最先端のデジタル技術と接するようになって、ぼくは、そこに途方もない可能性を感じました。今までは出版=紙というメディアで仕事をしてき たわけですが、デジタル表現の進歩のすさまじさや、デジタルコンテンツの自在な可変性やインタラクティヴ性は、今まで身を置いてきたメディアとはまったく 異なるダイナミズムに溢れた世界でした。
ゲーム開発は非常にスリリングで楽しい仕事です。ですが、そこは、企画、演出、脚本、ソフトプログラム、デザイン、サウンド、テクニカルリサーチ、デバッグ……といった多くのセクションが絡む高度に分業化された仕事です。
ぼくは、自分なりにデジタルの世界で完結できる仕事はないかと考えました。そして、思いついたのが、かねてから20年あまりのアウトドアライフから得た 経験をストレートにデジタルメディアで表現しようということでした。文章という形は旧態依然としたアナログですが、それを載せるWWW=インターネットと いうメディアは、生まれたばかりの純然たるデジタルメディアです。
著者と読者がほとんどリアルタイムでダイレクトに結ばれるというメディアは、今まで存在しませんでした。単行本一冊分の内容をここで公開するという試みも、当時はほとんど成されておらず、どんな反響が返ってくるか、楽しみでした。
まず反応したのは、インターネット関係の動向を紹介する雑誌やネットニュースでした。それらで、ぼくのサイトが紹介され、一気にアクセスが増えました。 そのうち、記事を読んだ方からE-mailが寄せられるようになりました。叱咤激励から内容に関するアドバイス、中にはずっと音信の途絶えていた旧友から の便りまでありました。
かつて手がけた本や雑誌の記事に対する反響ももちろんありました。しかし、インターネットでの反響は量からいっても、内容からいっても比較になら ないくらい濃いものでした。
ぼくは、その声に励まされて、コンテンツのブラッシュアップを続けています。また、同じようなコンテンツを提供している個人の 方ともホームページを通してたくさん交流ができ、互いにリンクを張ることで、互いのコンテンツにない要素を補い合う関係を築き、それがまさにWWWの有機的なクモの巣として広がりつづけています。
そのうち、今年の1月に、出版の打診をE-mailでいただきました。
声をかけてくれたのは、出版システムを徹底的にデジタル化して効率を高めている舵社でした。
E-mailをベースに話を進めて、すぐに出版の話がまとまり、ぼくは、活字向けにコンテンツをリライトするという作業を進めて、早くも、夏を前にして出版できることとなったわけです。
今でこそ、ホームページを作るなんてことは誰でも簡単にできることですが、ぼくが"Outdoor Basic Technic"を立ち上げた当時はまだ一般には敷居の高いものでした。
ぼくにとって幸いだったのは、SEGAで最先端のデジタル環境を経験していたことで、たいして難しいものに思えなかった ことです(実際には立ち上げまで、けっこう苦労しましたが)。そのSEGAでずっと取り組んでいたタイトル「シェンムー」も、この夏、正式に発売となります。ぼくとしては、一度に二つの仕事を世に送り出せて、とても晴れがましい気分です。
これからも、新しいゲームの制作に取り組みつつ、"Outdoor Basic Technic"の更新を続けていこうと思っています。そして、折りをみて、改訂版を出版していきたいと思います。
余談が長くなってしまいましたが、スタート当初に記した"Outdoor Basic Technic"の序論を以下に記します。
キャンプというと、かつては小学校の林間学校やボーイスカウトあるいは登山などをイメージさせる、どちらかというと地味でマイナーなアウトドアレジャーで した(キャンプそのものをレジャーというには、若干抵抗がありますが……)。山でキャンプするような“物好き”は女の子にはもてない男のナンバー1と相場 が決まっていたものです。
ところが、オートキャンプブームの洗礼を受けた後は、“キャンプ”がアウトドアレジャーの筆頭に踊り出てしまいました。ファッショナブルなRVや、いか にも使いやすそうで豪華なグッズが巷に溢れ、映画の題名じゃありませんが「今度キャンプに連れてって」なんて、若い女の子にリクエストされたりして……。
べつにストイックなほうがいいとは思いません。自然の中で風や鳥の声に耳を傾け、雲や星を眺めて過ごすことの楽しさを誰もが手軽に味わえるようになったのは、オートキャンプの普及のおかげだと思います。
でも、何かが足りない気がするのです。
現にオートキャンプを楽しんでいる人でも、今までのオートキャンプに物足りなさを感じている人は多いのではないでしょうか?
取材で、とある谷間のオートキャンプ場を訪れた時のことです。
3連休の初日だというのに、台風が接近中で生憎の雨模様。狭い谷に切り開かれたキャンプ場は昼前から夕方のような暗さ。2、3日は天気の回復がみこめないことがはっきりしていたので、まさか客など来ないだろうと思っていました。
ところが、昼過ぎから続々とキャンプ道具を満載したRVが到着しだすではあり ませんか。そして、夕方にはなんと満員!?
車一台にタープを張ったら目一杯という広さ(狭さ?)のサイトに、豪華なテントを張り、テーブル、大型ストーブ等々を並べ……といったものだから、個々 の人たちの持ち物は高級でも、全体を見渡すと、隣のタープと軒が重なり、張り綱はもつれ、難民キャンプさながら。夕食時になるとそれぞれのサイトから、 バーベキューやらラーメン、ステーキに鍋物とあらゆる匂いがたちはじめ、それが谷間で渦を巻きはじめました。
そんな状況の中でも、みんなけっこう楽しそうにしているのです。まあ、グループなら、どこぞの居酒屋でコンパしていると思えば同じようなものなのかもし れません。でも、傍らを見ると、最新のグッズを揃えたカップルが、ワインのグラスをカチリなんてやっているではありませんか。掃き溜めに鶴なんて言ったら 他の人に失礼ですが、でも、この難民キャンプの中で、そこだけ妙に清々しい雰囲気だったので、思わずインタビューしたわけです。
「楽しいですか?」
「ええ、もちろん。こうして自然の中で料理を食べると、調味料なんかなくたってそれだけで美味しいんですよ」
どこに自然があるの、と思わず言いかけ、なんとか言葉を飲み込む。
「ここへは、よくみえるんですか?」
「いえ、ここは初めてなんですけど、○○とか××とかはけっこう行きますよ」
と、よく耳にするオートキャンプ場の名前をいくつか上げました。
「けっこう、キャンプをなさってるみたいですね」
「ええ、もうオートキャンプ歴5年ですから。有名なキャンプ場はほとんど泊まりましたよ」
「道具も、立派なのが揃ってますね」
「一通りはね。でも、これくらいは揃えてなくちゃ、快適なキャンプはできないでしょ」
と、女性のほう。
「いつも、お二人で?」
「そうね、大勢いると、どうしても仲間うちで騒いで、自然に浸ることができないでしょ」
「ところで、明日は、どんな予定なんですか。○○山にでも?」
と、質問すると、二人同時に怪訝そうな顔をして、
「明日も、もちろんキャンプですよ」
「いや、だから、昼間は、なんかしないんですか?」
「いいえ、私たちは、キャンプに来たんですから」
「……………」
そろそろオートキャンプブームにも陰りが見えてきているようです。彼らのようなキャンパーが、一通りキャンプ場巡りを終えてしまったということでしょうか。
これで一つの流行がまた終わったのか、と冷めた目で見ればそれでいいのかもしれません。でも、せっかく自然に接するいい機会を持てたのに、ブームが去っ たから、「はいそれまでよ」では、いかにももったいない。オートキャンプのその先に何かを求めたり、キャンプの楽しみをもっと深く味わいたいと思っている 人も多いはずです。そもそも、あのカップルがキャンプ場の外へ一歩も出ないのは、出て行って自然と接する術をなにも知らないからではないでしょうか。せっ かく、扉に手を掛けながら、それを押したらいいのか引いたらいいのかわからずにいるようなものです。
キャンプとは具体的な何かではなく、人間が自然に接する一つのスタンスだと思います。自分で荷物を背負ってキャンプサイトまで出かけ、そこをベースにし て何かにアプローチするといういちばんベーシックで自然に近いスタンスにたちかえってみることで、何かが見えてくるのでは……そんな発想から本稿はまとめ られました。
これからキャンプでもはじめてみようかという方、あるいは、もっとキャンプの楽しみを掘り下げてみたいという方の道しるべとなれば幸いです。
------------1997年9月記
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新たなフェーズへ |
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●2005年7月20日-----
このOBTサイトを立ち上げてから、気がつけばもう8年。この8年間は、ぼくにとってまさに激動の年月であると同時に、それは社会自体が大きな変革のうねりに飲み込まれた時代でもありました。
6年前のリニューアルの際に記した文章でも、97年から99年の2年の間に、世にインターネットが登場して、はじめはせいぜいオタク趣味のマイナーなものと受け止められていたのが、急速に認知されていく様子を振り返っていますが、それは序章にしか過ぎませんでした。その後の6年間のインターネットの普及はまさに驚天動地ともいえるものでした。
インターネットの発展とともに
今思い出しても印象的なのはビル・ゲイツの言葉です。彼は97年の時点では、インターネットの可能性についてまったく展望も理解も持っていませんでした。マイクロソフトのインターネット戦略について質問された際に、そうした新奇ですぐに廃れてしまうものに追随するつもりはないとはっきり答えています。
ところがそれから一年もしないうちに、WindowsのオマケソフトだったInternetExplorerをWindowsの基幹に据え、これから全ての産業、社会に浸透していくインターネットとWindowsの親和性を極限まで高めるのだと発表したのです。
それが例の独占禁止に絡むIE騒動の始まりでもあったわけですが、マイクロソフトが本格的にインターネットの世界に乗り込んできたことによって、それまでは研究教育系ネットワークの牧歌的手作り的雰囲気が濃厚だったインターネットの世界が、一気に一般的になっていきました。
あとはすでに御存知の通り、日米でネットバブルが巻き起こり、それがドッグイヤーのデジタル世界らしくあっという間にしぼみ、しかし、インターネットは社会インフラとして着実に浸透し定着し、さらに大発展し、あらゆる分野がインターネットインフラに依存するようになりました。
そんな流れの中にあって、ぼくもOBTを維持し、発展させるとともに、新しい試みをネット上で始めたり、様々なネットメディアの立ち上げに参画したりしてきました。
ネットが一般的になることによって、WWW上に蓄積される情報がとてつもなく巨大になり、人智を集約したデータベースとなりました。またブログの普及で、誰でもネット上に気軽に情報発信できるようになり、様々な個性と出会うことができるようになりました。
反面、毎日途方もない数のスパムメールが押し寄せ、メールボックスがたちまちオーバーフローしてしまったり、次から次へと出現するウィルスに対処するために、とんでもない経費と時間を使わされる羽目に陥っています。
メリットもあれば必ずデメリットもあるのは全てのシステムの宿命ですが、インターネットの出現と普及は、自分にとって非常に重要なものであったと実感しています。
何よりも、早くに情報発信を始めたことで、今まで出会いたくても出会えなかった数多くの人と知り合えたことがインターネットの大きな恩恵でした。さらにそうして出来上がったコネクションから、新しいビジネスや変革の可能性がどんどん生み出されていることは、奇跡とすら思えるほどです。
OBTサイトを立ち上げた当初、デジタルの世界に疎い知り合いの多くは「そんなオタク趣味に時間を割くなんて無駄だよ」とぼくに再三忠告しました。でも、ぼくはそんな無駄を地道に続けることで、それまでにはありえなかった多くのチャンスと希望を掴むことができました。
リアルな「体験」までフォローできるサイトに
今回のリニューアルは、単にデザインを変えたり、内容を整理するといったものではありません。今までOBTは個人の趣味的なサイトとして運営してきましたが、今回のリニューアルでは、マーチャンダイズやサービスをバックヤードとして充実させるとともに、よりメディアとしての機能を高めていくことを目的として、サイトの設計や業務提携を行いました。
単に知識を提供するだけでなく、知識や経験に裏打ちされた製品やサービスまで提供する。さらに、ツアーやインプレッションという実践の場を増やしていくことで、さらなる知識と経験を積み、それを商品やサービスに還元していくというリアルな展開を図っていくことにしたわけです。
それは、今までOBTを通して培ってきた情報やノウハウ、そして人脈の蓄積によって可能となりました。
マーチャンダイズは、僕自身が自分の気に入ったグッズをセレクトショップといった形で提供している「OBT-SELECT」と、OBTを通して知り合い、ずっと交流を深めてきた大阪のG-Outfitterが運営する「野外道具屋」との提携により、充実したアウトドア関連グッズのラインナップをお届けします。
また、ツアーなども、OBTが単体で実施しているオフ会の他に、「野遊び屋」と合同で実施してきたスノーシューツアーやトレッキングツアーをより発展させたり、お勧めのアウトフィッターやツアーを紹介していくことも積極的に行っていきたいと思っています。
左の序論では、90年代半ばのオートキャンプブームの様子を揶揄するような表現をしました。そのオートキャンプブームはいつのまにか去り、山を席巻した「百名山」ブームも沈静化の方向にあります。
今、みんなが求めているアウトドアアクティビティは、単なる流行のお仕着せのものではなく、自分の個性に合ったものをじっくりと楽しみ、「体験」できるようなものです。そして、グリーンツーリズムやエコツーリズムに代表されるように、そんな「体験」が自らと自然との共生を実感させるようなものこそが必要とされています。
それこそが、ぼくが登山をはじめとするアウトドア体験の中で自分が感じたものであり、OBTを通じて人に伝えたかったものでした。
ずっとOBTトップページに掲げてきた表題、
「人間は、自然から切り離されて存在することはできない……自然から多くを学ぶために、そして自然と心地良く共生するために……」
とは、まさにそのことだったのです。
人が、単にイメージするだけでなく、実践する場を求め始めた今、OBTの使命は、実践を提供できるリアルな「場」を用意することでもあると感じました。
その一つの形として、四国で本格的なシーカヤックツアーやトレッキングツアーを実施する「野遊び屋」、若狭で同様にシーカヤックツアーやトレッキングツアーを実施し、また様々な野外教育プログラムを実践する「あそぼーや」、ニュージーランドで日本人として初めてシーカヤックガイドの公式資格をとりガイドとして活躍するRyu.Takahashi氏……このOBTを通して交流を深めてきたコネクションを軸に、様々なコラボレーションで、充実した「体験」のできるアクティビティを提供していきたいと思っています。
そして、このOBTの活動を軸に、僕自身も、自然と接し、心地良く共生するライフスタイルを探り続けていきたいと思います。
------------Kazunari Uchida
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