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05/06/13
阿武隈

 昨日は早朝に東京を出発して阿武隈の山々をオートバイで巡った。茨城県の北部から福島にかけて標高1000mにも満たない小山が連なる山地。高さはない代わりに途方もない広がりがあって、小高いピークに登って見渡すと、低木と草原を載せた緩やかなカーブの山並みが見渡す限り続いている。
  高山のピークを目指すのもいいけれど、こうした広がりのある山域を気ままに辿るのも気分がいい。何より阿武隈の山々と向き合うと心の底から落ち着く。ぼくが高校時代に始めて登山を体験したのは、この阿武隈の一角だから、故郷に帰ったようで安心するということもある。でも、それ以上に、日本の「山」を象徴する風景や雰囲気がこの阿武隈にあるからだろう。日本人として血に刻まれた記憶が、阿武隈の山に接することで呼び起こされ、郷愁を掻き立てるのだろう。
  じつは、同じようにそこはかとない郷愁を感じさせる山並みが各地にある。東北なら北上山地、信州の後立山連峰に対峙する東山の連山、あるいは高山から郡上八幡へ抜ける間の優しく明るい山並み、四国や中国のカルスト台地、熊野の果無山脈、そして九州の九重……。
  北アルプスや八ヶ岳といった高山がピークを征服することを目的としたスポーツの対象であったり、山岳信仰の対象として同じくピークを目指す修行の場であったりして、天にそそり立つ「一点」にすべてが集約されるのに対して、阿武隈のような場所は目的など持たずにただ心を開きに訪れるのが似合う。そして、阿武隈のような広がりを持った山地では、神聖が集約する高山に対して、それが拡散して偏在する場所ともいえる。
  何にしろ、集約されて何かの密度が高まった場所は緊張感があり、そこに居るあるいは向かう人間のテンションは高まる。平地になると密度は薄まりすぎて、緊張感がなくなってしまう。阿武隈のような場所はちょうどその中間にあって、緊張と弛緩がちょうどいいバランスにある。
  今回はこの阿武隈の山の中に点在する7ヵ所のポイントを巡るのが目的だった。巨石遺構に関係のあるその7ヵ所を結ぶと、大地に大きな北斗七星が描き出される。それぞれの場所が実際にどんなところで、そこに何があるのか確かめることが目的だった。でも、抜けるような青空と間近に行過ぎる雲と追いかけっこするように草原の道を駆け抜けていくと、古代だか超古代だかの謎なんてどうでもいいことに思えてくる。北斗七星の一つ一つの星に対応する7ヵ所のポイントはそれぞれ特徴があるが、走り抜ける途中の丘の上からあたりを見渡すと、そこらじゅうに愛嬌のあるピークがあって、それぞれが何か意味を秘めて、密やかに語りかけてきているように思える。
  このあたりに太古か古代に住んでいた人たちが、大陸から渡来してきた陰陽道もしくはその原型となる思想に基づいて大地に北斗七星を描き、さらにその先にある北極星を指し示した……といった推論を確かめにやってきて、北極星に位置する面白い場所も見つけたりしたのだが、たおやかな山並みに抱かれているうちに、めっきり興奮が醒めて、どうでもいいことに思えてきた。
  阿武隈の丘の上で眺める星空は壮絶だ。目の前で眩しく輝く星星を見た古代人たちは、夜が開けて大地を見回して、そこに天に散らばる星と同じように散らばる丘を見て、ほんの少し酔狂を起こしたのだろう。一つ一つの丘をそれに対応する天の星に見立てて、頂上の岩盤を露出させて目印を刻んだ。そしてまた夜の星空を眺めて、それと自分たちが刻んだ大地の星とを見比べて悦に入っていたに違いない。
  気候が温暖で、食料も豊富なこの土地では、そんな酔狂にうつつをぬかす暇も体力もそして想像力もあっただろう。
  なんだか、山を巡るうちに、陰陽道との因果関係やら太古の思想体系やらと、理屈を考えていた自分が途方もなく愚かに思えてきた。唯一絶対神ではなく、もっとずっと低級というか穏やかで角がとれていて、人間に近い親しみやすい八百万の神々をイメージしたぼくたちの祖先は、まさにこんな自然をそのまま神話化したのだろう。
  ここには最も崇めるべき抜きん出た聖地などどこにもないけれど、一つ一つの丘がちょっぴり神聖で、そこに立ったらペコリと頭の一つも下げたくなるようなところで、だからこそその自然を大切にしたくなるような場所といえるだろう。 

―― uchida
 

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05/06/09
アウトドア人種

  今月3日から6日まで、四国香川の「野遊び屋」にご厄介になって、「シーカヤックミーティング」に参加してきた。前回ぼくが参加したのは2001年の第一回のイベント。特集のコーナーでもそのときの模様を紹介したが、あれから4年ぶりの参加だった。
  前回は岡山県の牛窓で、地元のペンション「黒潮丸」が協力してのコラボレーションスタイルだったが、その後、主催者のG-Outfitterが「野遊び 屋」として四国に拠点を築き、ここが文字通りベースとなった。全国から50人あまりのビギナーからベテランまで多彩なシーカヤッカーが終結し、天気に恵ま れ、湖のように凪いだ瀬戸内海に浮かんで、のんびりと漂った。
  前回、アーバンアウトドアライフという話を書いたが、フィールドに出て風に吹かれると、「やっぱり大自然の中にいるのがいちばん」だと思う。たぶんぼくは 修行が足りず、芦沢一洋さんのように都会にあっても大自然と自分が繋がっているという意識をまだ明確に持てるようにはなっていないのだろう。
  海に浮かんでぼんやりしていると、「ようやく自分の居場所に帰ってきた」という、なんともいえない安堵感に包まれる。
  その昔、2ヶ月あまりのシルクロードの旅から帰ってきて、現地で出会った少数民族運動会(中国新疆のローカルオリンピックのようなもの)の紹介記事を『ス ポーツ批評』という雑誌に書かせてもらった。そのときの担当編集者が日本人として初めてドーバー海峡横断を成し遂げた大貫映子さんで、初めて会った際に、 大陸ボケをひきずっていたぼくが「東京の人ごみの中にいると、ペースが合わなくてほとんど廃人ですよ」とぼくが言ったら、彼女も「私もそう。自然の中にい ないと自分じゃないみたいなんです」と朗らかに笑って、いっぺんで心が通い合った気がした。
  大貫さんにしろぼくにしろ、アウトドアにいてなにかしら体を動かしていないと調子が出ないという「人種」なのだろう。そういう人種にとってアウトドアスポーツは単なるアクティビティではなくて、生活の主体、体や精神の拠り所なのだ。
  シーカヤックミーティングで海に出たみんなは、海上やキャンプ地の砂浜で、みんな生き生きとしていた。それぞれに職業や立場は違うけれど、みんな自然から疎外されるとストレスがたまってしまう「アウトドア人種」なんだなとふと思った。
  今、そんなアウトドア人種のための拠点が増えている。単にサービスを提供するだけの観光業ではなく、ライフスタイルとしてのアウトドアをきっちりと体験で きるプログラムを持ったアウトフィッターや宿。シーカヤックやトレッキングが未体験でも、基本技術はもちろん楽しみ方まできっちり伝授して、さりげなくサ ポートしてくれる。またベテランなら気の置けない「たまり場」的に、そこで仲間たちと交流できる。
  いずれも個々のアウトフィッターや宿が自分たちの持ち味を最大限に出すように工夫しているのだが、最近、全国に散らばるそうした拠点が連携するようになっ てきた。連携といっても業務提携とか協会を作るといった堅苦しいものではなく、それぞれのスタッフが互いのフィールドを訪ねて個性の異なる自然を満喫し、 そのすばらしさを訪れたお客さんにも紹介するといった形だ。この連携の中で、どこか一つのアウトフィッターを訪れたお客さんが、また別なフィールドの魅力 を感じて、そこに足を運ぶ……そんなふうにして日本全国の自然を堪能して、「アウトドア人種」として目覚めていく。そんないい感じの循環も生まれている。
  ぼくもいずれは気に入った場所に自分なりのベースを築き、そこをアウトドア人種のたまり場にしたいと思う。以前は、単に自分のライフスタイルを実現する場 としてのカントリーライフをイメージしていた。自然の中に身を置いて自分だけを開放できる世界への憧れ、隠遁生活ともいえるそんなスタイルは、じつは歪な のではないか。自然と共生するためには心が頑なではだめだ。そして心を開くということは人も受け入れるということではないか。最近、アウトドア人種との交 流が増えて深まるにつれて、そんなふうに思えてきた。
  ぼくなりのアウトドア人種たちが交流できるベースが実現するのはまだ先になりそうだが、今お勧めのベースを紹介しておこう。

「野遊び屋」
http://www.noasobiya.jp/noasobi.shtml
「あそぼーや」
http://www.pamco-net.com/asobo-ya/
「エイベルタズマンアドベンチャーズ」
http://www.onjix.com/ata/
「漕店」
http://www.h3.dion.ne.jp/~souten/

―― uchida

 

 

 

 

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