05/11/13
ち、はじめてこおる
二十四節気の「立冬」、七十二候の「地初めて凍る」。そろそろストーブやコタツが恋しくなってきた。
10月初旬、軽井沢で紅葉の兆しを楽しんだ。下旬には信州廻り目平で燃える紅葉に包まれた。だが、都会生活に戻るとあっという間に時間が過ぎて、きがつけば冬の入り口に立っている。
自然から疎外されていると感じるのは、外界の変化が察知できずに、気がつくと季節が変わってしまって、慌ててこちらの気持ちを合わせようとするこんなときだ。
温暖化の昨今では、まだ僕の住む東京郊外では「地初めて凍る」とまではいかないが、この文字を見つめて情景をイメージすれば、もうまもなく刈り入れの済んだ田や畑に霜が下りて、地面が凍ることが実感できる。天気予報では、「北海道では平野でも雪が降りそうです」と伝えているが、北海道では……と言われても1000km以上離れたここでは他所の国の話のように聞こえてしまう。だが、暦に記された七十二候の「地初めて凍る」の文字を見れば、冬支度を急がなければという気にさせられる。
この数日、新しいPCを導入したのはいいが、データ移転やらネットワーク設定やらで奴隷のように件のPCにこき使われて昼夜逆転の生活を余儀なくされているが、その真新しい19インチのモニタの横に掲げて、「地初めて凍る」と語りかけてくれるのは「Think the Earth Project」が企画して作り上げた『えこよみ』だ。
Think the Earth Projectは、このコラムの第一回で紹介したガイアシンフォニー3の助監督を務めた上田壮一さんが立ち上げたプロジェクトで、環境と経済の共存共栄を目指して、様々な活動を展開している。
上田さんとは、某ゲームメーカーの大プロジェクトで一緒になり、ともに中国の辺境を取材したり、まったく新しいゲームシステムについて意見を戦わせたりしながら、楽しく同僚として仕事をさせていただいた。
彼はゲームプロジェクトからはぼくより先に離れることになり、そのすぐ後にThink the Earth Projectを立ち上げて、とてもセンシティヴで斬新な製品企画やイベントを展開し始めた。
ちょうどぼくがこのOutdoor Basic Technicをスタートさせた頃、上田さんが関わった「ガイアシンフォニー3」が完成し、その試写会に呼ばれて彼と再会した。それからまた月日が流れて、上田さんはThink the Earth Projectで経済と環境を融合させる試みを推し進めて、その分野での第一人者となった。
彼の講演会が有楽町で開かれることを知って、当人にも知らせずに出席すると、彼はぼくを見つけてとても驚き、そして喜んでくれた。ぼくも懐かしい友が活躍し、自分の活動を自信をもって解説する姿がとても眩しいと同時にとても嬉しかった。思い返せば、ゲームプロジェクトの場で出会ってから大地は10回凍ったことになるのだ……。
「地初めて凍る」は第五十六候、次の第五十七候は「水仙香ばし」。この夏久しぶりに訪ねた越前岬ではもうすぐ水仙の花が咲き始める。
----uchida
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05/11/07
ブログの怖さ
夏の取材ラッシュが終われば一心地つけるかと思っていたが、秋に入ると今度は紙メディアの仕事が立て込んできて、さらにはサーバのトラブル復旧やら、前々から計画していた旅行をこなさなければならなかったりと、このコラムのページを更新する機会がなかなか持てなくなっていた。
ブログツールを使えばブラウザで開いて書き込みするだけなので気楽に近況を更新できるが、ぼくはどうもブログというメディアは好きになれない。
というのは、ふつうに手書きで日記を記すように扱える手軽さはいいのだが、そのせいで、WEB上で公開されるメディアであることを忘れて迂闊なことをそのまま発信してしまいそうな気がするからだ。
つい数週間前のことだが、面識のある元編集者が自身で公開しているブログに悪口雑言やら実名でトラブルのあった相手を記してしまい、それが2チャンネルを中心にして騒ぎとなって、ついにはブログが閉鎖されたのはおろか職も事務所も失い、自宅も嫌がらせが相次いで住んでいられなくなってしまうという事件があった。
彼はあわててブログの内容を削除したのだが、今はGOOGLEのキャッシュには残ってしまうし、このブログを問題視した人たちが独自にキャッシュしたものを公開したりして、今でも公に晒され続けている。
このケースでは、WEBのポテンシャルをまったく理解していなかった当の本人にその責任がある。今やWEBは情報の伝達という点では、他のメディアを遥かに凌駕している。そんな認識がまるでなく、WEBの影響力に疎すぎた。
紙メディアの人間はWEBの草創期の「オタクの世界」というイメージをいまだに持ち続けている人が多い。そういう人たちでもブログなら簡単に手を出せるので、自分が見下している世界に入って、ついつい彼のような間違いを起こしがちだ。
WEBは情報発信という点で大メディアだろうが個人だろうが公平なシステムの上に成り立っている。そこを「自分は一般人とは違うメディア人だ」と勘違いして情報発信すれば、ブーイングの嵐に巻き込まれるのは当然だ。WEBコミュニティはオープンで平等が基本だから、メディア人としての優越感を滲ませたような彼の表現は、そこに書かれているほどの悪気はないとわかっていても鼻につくようなものだった。
昔、ある電気メーカーのクレーム処理担当者の受け答えが音声ファイルで公開されて、会社が存亡の危機に立たされた事件があったが、今回の事件ではあの一件を思い出した。
個人情報の保護といいながら、一方ではブログで自分の趣味趣向や性癖まで開け広げてしまう人たちが氾濫している。今回の事件の彼のブログもまさにその代表例のようなものだった。人と面と向かって話をするときに、心に浮かんだ印象や雑念をそのままダイレクトに言葉にしてしまう人は滅多にいない。ほとんどの人は、話す相手の気持ちを忖度したり、気分を損ねないように言葉を選んで話すはずだ。
ところが、ブログはむき出しの感情や取り止めのない印象を排泄するような言葉の羅列があまりにも多い。そういったものは、たまたま目にしてしまったこちらの後味も悪い。そんな様子を見るにつけ、ますますブログという安易なツールに手を出すのは危険だという思いが強くなってきてしまう。
結局、ぼくという人間は根が迂闊であるから、ある程度手間が掛かって、客観視できるような媒体がいいというだけなのだが……それにしても、WEBにアップロードするということは、世間に晒される前に必ず幾人かの目に触れて校正される紙メディアよりも、遥かに安易なプロセスなのだが。
----uchida
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