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Step10 : トレッキング |
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[ INDEX ]
1.キャンプサイトを後にウィルダネスへ 2.朝の準備(早起き!!)
3.サブザックに何を詰めるか 4.歩き方の基本 5.斜面 6.ガレ場 7.岩場
8.ヤブこぎ 9.渡渉 10.休憩のとりかた 11.ナビゲーション
12.コンパスの使い方 13.GPS、高度計の活用 14.最新ハンディGPS
■キャンプサイトを後にウィルダネスへ■
キャンプとは、本来、登山や探検、調査あるいは旅という別の目的をこなすための手段として行われます。もちろん、キャンプ地に定着してキャンピングそのものを楽しむことを否定するつもりはありませんが、『はじめに』の項でも紹介したように、ひたすら有名キャンプ場を巡ることだけが目的となって、その数を自慢にし、あるいはキャンプ場の設備やら雰囲気だけしか記憶に残らないとしたら、あまりにも貧困で哀れなセンスだと思います。
ふつう、キャンプ場は魅力的なフィールドの中や側に設置されています。それなのに、テントの横に設えた狭いアウトドアリビングスペースとバーベキューしか記憶に残らないのでは寂しすぎます。たまには、キャンプ場という狭い枠を離れて、広い世界に足を踏み出してみましょう。
●朝の準備(早起き!!)
行動を起こすには、早いに越したことはありません。早起きは三文の得とは、まさにアウトドアでは的を射た格言です。
例えば、夏のフィールドでは、涼しい午前中のうちになるべく予定を消化しておいたほうが、気持ちがいいし効率的です。とくに真夏の山では、午後三時を過ぎると夕立に襲われる危険性が高く、安全性の点からも早起きのメリットは大きいといえます。秋から冬の陽が短い季節なら、早く行動を起こすことのメリットはもっと歴然としています。
早起きしたら、簡単に済ませられ、かつ消化の良さや午前中の行動に十分なカロリーをとることを考えた朝食を摂ります。
そして、食事を済ませたら、天気や気候、体調などを考え合わせて、行動計画を最終的に決定。最後に装備をチェックしたら、いよいよトレッキングに出発です。
・追記
登山の世界では、気象の安定している午前中のうちに、その日の行動の主要なところを消化してしまうのが鉄則となっています。だいたい、日が昇る少し前に起き、日の出を拝んでから、早々に朝食を済ませて出発。午後3時くらいまでには、キャンプサイトに戻るか、次の幕営の準備にとりかかっているというパターンです。ふだんは生活リズムがめちゃくちゃなぼくも、なぜかフィールドでは、規則正しい生活リズムとなります。
アウトドアでは、とくに朝と夕方の景色は荘厳で、とりまく空気の感触が爽快です。朝寝坊をして、せっかくのモルゲンロート(朝焼け)を見逃したりすると、なんだか一日の半分を損したような気分になります。同じく、次の幕営の準備を早く終えて、景色を堪能する余裕があれば、今度はアーベントロート(夕焼け)をゆっくり楽しむことができます。日が落ちる寸前に真っ赤に燃え上がる山稜、さらにそれから10分ぐらいして全天が茜に輝く夕焼け、運が良ければ、雲海に落ちるブロッケン(雲海の上に伸びた自分の影の周りが七色に輝く現象=ドイツのブロッケン山で良くみられて、『ブロッケンの妖怪』といわれたことからこの名があります)が見られます。早起きは、三文どころか、大きな得ですよ。
●サブザックに何を詰めるか
キャンプそのものを移動する場合は、当然全ての装備をパッキングしなおして移動するわけですが、キャンプをベースとして出かけるトレッキングでは、ここからさらにどんな装備をサブザックに詰めて持っていけばいいのか頭を悩ますところです。
まず、貴重品はテントに残して行くわけにはいかないので、サブザックに詰めこみますね。そして雨具。予報が雨ではなくても、山などでは局地的に悪天候になる恐れがあるので、必ずトレッキングの装備リストには入れておきましょう。秋口には、急に冷え込むことがあるので、そんなときは防寒具として使います。
他に必要なものを列挙してみましょう。水を満たしたカンティーン、行動食、昼食、ストーブ、コッヘル、シェラカップ、細引き、ファーストエイドキット、エマージェンシーブランケット、ビノキュラー、図鑑、帽子、サングラス、タオル、着替え……といったところでしょうか? トレッキングは、なるべく身軽なことに越したことはありません。これら必要品目の中から、場合によっては食器はシェラカップのみで済ますことにしてコッヘルを外したり、ファーストエイドキットの一部を分けて持っていくようにしたり、状況に合わせたコンパクト化が必要です。
サブザックへのパッキングも、ザックのパッキングのところで紹介した「重いものは上、使用頻度によって取りだしやすい位置に」というセオリーが適用されます。
また、ウエストバッグをして山歩きをしている人を最近みかけますが、急な登降の際に腿に当たって邪魔になったりしますので、荷物はなるべくサブザック一つにまとめたほうがいいでしょう。
・追記
ベースキャンプを起点にして一日トレッキングするといった場合、ぼくは、なるべく身軽であることを心がけています。ウェアは、春から秋へかけてのスリーシーズンでは、防寒と雨への対策を兼用してゴアテックス製の雨具を用意して、ウールのシャツに軽いフリース程度。冬はダウンなどのインシュレーターの入ったジャケットを着用します。その他の装備は、ほぼオールシーズン共通で、食料はすぐに食べられる行動食(サンドイッチとか、朝食の残りで作ったおにぎりとか、あるいはカロリーメイトなど)にコーヒーあるいはティーバック。1gほどの水。お湯をわかすためのコンパクトストーブとφ20cm程度のコッヘル、それにシェラカップ。行動用にコンパクトなパッケージにしたエマージェンシーキット、それに図鑑やビノキュラーなどです。
それらすべてを35g容量のアタックザックに詰めて、かなり余裕がある状態です。いちど、容量の多いウエストバックに全部まとめて使用してみましたが、歩行の邪魔になるので、トレッキングでの使用は止めました(MTBやオフロードバイクのライディングのときは、ウエストバッグのほうをよく使いますが)。
●歩き方の基本
ザックを背負って不整地を歩くトレッキングでは、当然、それなりの歩き方のコツがあります。手ぶらで街を歩くときのように無防備な歩き方では、石に躓いたり、木の根やぬかるみに足をとられたて転んだりしてしまいます。第一、重い荷物を背負っているので、それなりの歩き方をしないと疲れてしまいます。
これから、斜面や岩場、渡渉といったシチュエーション毎に、それぞれの歩き方のコツを紹介していこうと思いますが、その前に、どんな場合にも共通して言えることがあります。それは、歩幅を短く、ゆっくり歩くということ。それから、足の裏全体で地面を踏みつけるようなフラットウォーキングを心がけるということです。アウトドアフィールドを歩く場合はアップダウンを繰り返す場合が多く、とくに斜面を登る場合では、歩幅を大きくとっているとそれだけ1モーションでの運動量が大きくて疲れてしまいます。また、足元には石が転がっていたり、ぬかるんでいたりしてスリップしやすく、そんなときに歩幅を大きく取っていると、咄嗟の対応が難しくて転倒しやすくなります。
それから、とくに朝は、歩きはじめる前の準備運動も大切です。まだ目もしっかり覚めていない状態で、筋肉も固まったままザックを背負って歩き出すと、足の故障や転倒など思わぬトラブルを招きやすくなります。朝食を食べる前か、歩き出す前には、軽いストレッチや体操を行って、筋肉をほぐすようにしましょう。
・追記
歩幅を短く、足をフラットに地面につけるというのが、不安定な足場のときの歩き方の基本ですが、最近では、フットウェアにもいろいろな種類のものがあるので、それぞれに合った歩き方があります。アウトドアシューズといえば、以前は、足首を守るという観点からブーツタイプが主流で、ソールも硬くて反らないものがほとんどでした。こういったフットウェアだと、足首が自由に動かず、ソール全体をしっかりと足場に載せないとすべりやすいので、フラットウォーキングが強調されたのです。
最近は、気軽にアウトドアを楽しむというコンセプトから、ナイロンアッパーに軽く柔らかいソールのランニングシューズタイプの製品もたくさんあります。これらは、へビューデューティなブーツに言われるほどフラットウォーキングに気を使う必要はありません。でも、気軽な反面、プロテクションが十分でないので、ヘビーデューティブーツ以上に足首の捻挫や岩に挟んでの打撲などには気をつけなければなりません。
ようは、歩くことも一つの技術であるということを意識して、そのときどきのシチュエーションと自分のスタイルに合わせた歩き方を意識することが大切です。
●斜面
先にも紹介したように、歩幅を短く、ゆっくりとしたペースで歩くのが基本です。登りでも下りでも、フラットな路面を普通に歩くときの半分ほどの歩幅で、肌にうっすらと汗をかく程度のペースが目安です。
シューレース(靴紐)は、登りの際はあまり締めすぎないように、ややゆったりめに結びます。逆に、下りでは、どうしても靴の中でつま先側に足が寄りすぎる形になりやすいのできつめに締めるようにするのがコツです。といっても、むやみに締めあげると、血行を阻害してマメや靴擦れあるいは凍傷などの原因となるので、適当な加減にすることが大切です。ウェアの項でも、レイヤードをこまめに調節することが大切だと書きましたが、シューレースの結び加減も、状況に合わせて微調整を繰り返すのがアウトドアでの歩行のセオリーです。
登山靴や軽登山靴を履いている人で、余ったシューレースを足首に巻き付けている人を見かけますが、これは、血行と足首の動きを阻害するのでやめましょう。もちろんシューズのアッパーを傷つけて、シューズの寿命を短くすることにもなります。シューレースが長すぎたら、適当な長さにカットして使いましょう。ちなみにカットした端がほつれないようにビニールテープを巻いたり、火で炙って末端処理を行っておくといいでしょう。
・追記
一口にゆっくり歩くといっても、人それぞれで差があります。ソロの場合なら、自分でもっとも息があがらない楽なペースで歩けばいいでしょう。パーティを組んでいる場合は、メンバーの中でもっとも体力がない人のペースに合わせるのがポイントです。といっても、歩くペースが極端に遅くなってしまうような場合は、ペースの速い人にとっては、逆に疲労が増す原因になります。そんなときは、ゆっくりめのパーティと早めのパーティに分け、大休止のときに全体のペースを調整するようにするといいでしょう。
また、歩き始めは、急に体に負荷がかかるため、かなり苦しく感じますが、20分も経つと循環器が定常状態に落ち着いて楽になるものです。最初のうちは、苦しくても休みたい気持ちをぐっとこらえるのがポイントです。出だしで弱音を吐いてすぐに休憩してしまうと、休憩癖がついて、後のペースががっくりと落ちてしまうことになります。
●ガレ場
ガレ場とは、岩屑などが堆積した足場の悪い場所のことです。とくにガレ場の斜面を歩く際には、浮き石を踏んだり、落石をおこさないように注意することが大切です。浮き石とは、岩のエッジに引っかかったり緩い地盤に不安定に載っている石のことで、不用意に足を載せると石ごと滑り落ちたり、あるいは落石を誘発する原因となってしまいます。ガレ場で、浮石を踏まないコツは、よく足場を見極め、踏みだした足には一気に体重をのせないで、ゆっくり重心移動するようにすることです。
また、あやまって落石をおこしたときは、急いで下にいる人に向かって叫び、危険を知らせましょう。登山では、そんな場合「ロック!!」と大声で叫ぶことになっています。
・追記
トレッキングの行程の中でガレ場があるなら、ジョギングシューズのような軽い靴ではなく、足首まで保護するブーツタイプの靴を履いたほうがいいでしょう。ソールは、不安定な地面でもしっかりとフリクション(摩擦)の効くビブラムのようなブロックソールが安心できます。ぼくは、そんなシチュエーションが多く想定されるようなコースを行く場合には、爪先に安全靴のような補強が入った、ビブラムソールのワークブーツを使います。これは深さ8インチで、くるぶしはもちろん足首もしっかりとガードし、小石なども入りにくく、ハードな状況では理想的なブーツです。ちなみに、ICI石井スポーツのオーダーメイドで4万円近くしましたが、20年近く愛用して、まだまだ現役です。
●岩場
急な傾斜の岩場での登降は、「三点支持」がセオリーです。両手両足で四本、必ずそのうちの三点で体の安定を確保しておき、一点だけを動かして体を移動させることを言います。例えば、両足と左手で体を支え、右手だけを動かしていいホールド(支点)をつかむ。今度は両手と右足は動かさず、左足だけを次のホールドに動かすといった具合で、体の安定を確保したまま移動するわけです。
また、岩場では恐怖心から岩にへばりついたようなかっこうになっている人をよく見かけますが、これは、もっとも滑落しやすい態勢です。体を支えるいちばん重要なポイントは靴底のフリクション(摩擦)です。岩から体を離して、足に重心をかけるようにすればフリクションが効いて安定するのですが、怖がって体重を足にかけられないと、十分なフリクションが得られず、滑りやすいのです。
下りの場合、急傾斜だとどうしても岩に対面する形(登りと同じ体勢)をとりたくなるものですが、これはよほどの場合を除いて避けたほうがいいでしょう。この態勢では、足元の視界が悪くなり、最適なホールドがさがしにくくなってしまうのです。逆に岩に背を向けても、恐がってへっぴり腰になってしまうと、これも、靴底のフリクションを失って滑落しやすくなります。下りでは、大胆に両足に重心をかけ、気分的には前のめりくらいの態勢をとるのがコツです。
「大胆かつ慎重i」、それが岩場歩きのコツと覚えておくといいでしょう。
・追記
先年、山梨県南部にある乾徳山山頂直下の岩場で、中年女性が転落死するという事故がありました。夫婦でこの山に登りに行き、岩場に差し掛かって奥さんのほうは自信がないので下で待つことにしたまではよかったのですが、一人で不安になって、旦那さんの後を追って登って転落したようです。
岩場は、登りよりも下りのほうが難しく、なんとか勇気を奮い起こして登ったものの、途中で先に進むことも降りることもできずに立ち往生といったケースがよくあります。
もし、自信がなくて、有効な確保手段もなければ、岩場を前にして、引き返す勇気が必要です。岩場でのトラブルは、自分だけでなく、救助するものにとってもリスクが大きいということを忘れてはいけません。乾徳山のケースでは、この山が比較的ポピュラーなハイキングコース的な山として紹介されているので、初心者ながら出かけたものの、山頂直下で思わぬ障壁に出くわしてパニックに近い状態に追い込まれたのだと思います。初心者向けと紹介されているコースでも、途中に小規模ながらも危険性をはらんだ岩場があったり、滑りやすい丸太が渡しただけの橋があったりします。フィールドに臨むときは、それなりの情報集めや日ごろから体を動かすなどの準備は不可欠です。
余談ですが、ボルダリングといって、落ちても怪我をしないような高さの岩に取りついて遊ぶ方法がありますが、まずは、こういうことで、バランス感覚をつかむなどしておくのもいいでしょう。
●ヤブこぎ
地図に載っているルートでも、あまり人が歩かないようなサブルートや、あるいは草木の茂る夏の間はルート上にヤブがかかっていることが度々あります。
ヤブの中を歩くのは、いっぱんに「ヤブこぎ」と言われているように、歩くというよりも漕ぐと形容したほう適当です。平泳ぎするようにヤブを左右にかき分け、茎を踏みしめるように足を前に出して進むその様子をよく表しています。
ヤブこぎでまず注意しなければならないのは、肌をなるべく露出しないようにすることです。熊笹の葉にむき出しの肌を切られたり、折れた枝先が刺さったり、さらにはヤブ蚊などの虫に刺されたり、いろいろリスクが潜んでいます。できれば軍手などで、掌までガード下ほうがいいでしょう。
何人かのパーティで進む場合は、必ず、先の人が後の人へかき分けたヤブをバトンタッチします。後ろを注意せず、無造作に手を離すと、後続の人の顔を打ったりして、思わぬアクシデントを招くことになります。
また、雨や露などでヤブが湿っているときは、とくにスリップしやすいので注意しましょう。
・追記
ヤブこぎでは、直接樹木に肌が触れるので、ウルシなどのかぶれを起こす植物や、蜂などの有害昆虫や動物にも、じゅうぶん注意しなければなりません。
また、やぶの中を歩くコツとしては、身を低くして見渡して、獣道のような踏み跡を見つけ、それを辿ることです。獣たちも、なるべく歩きやすいところを探して通りますから、それを辿れば、労力が少なくて済みます。
●渡渉
逆説的な言い方になるけれど、渡渉は、どうしようもない場合を除いて、なるべく避けるべきです。とくに、水位が膝上まであって、太いザイルのような確実な確保手段を持たないときは、自殺行為以外の何ものでもありません。
渡渉が避けられない場合、まず、流れを真っ直ぐに横切るのは避けましょう。体の真横から抵抗を受けると、体勢が崩れやすく、簡単に押し流されてしまいます。
渡渉は、流れに対して斜めに横切るのが正しい方法です。しかも、どちらかといえば、「ダウン・アンド・アクロス」つまり、下流に向かって斜めに流れを横切るほうが労力が少なくてすみます。
流れの中の状態がわからないので、靴は履いたまま。フリースなど水を含むと重くなるウェアを着ていたら、それを脱いでザックに収納します。装備はなるべくポリ袋などに収納してからザックに入れます(そうすれば、万が一流されたときにザックが浮き代わりになります)。そして、丈夫な枝などを支えにし、足場を探りながら慎重に渡ります。
いちど流れに踏み込んだら、途中で躊躇するのはかえって危険です。途中から諦めて戻ろうとするときは、流れの中で方向転換すると体勢を崩しやすいので、なるべく岩に上がるとか、流れの緩やかなところを選んで、態勢を立て直します。
●休憩のとりかた
つい最近まで、運動中にはあまり水分を補給しないほうがいいというのが定説でした。でも、運動生理の研究が進み、それが間違った理論だということがわかっりました。新しい考え方では、積極的に水を補給する『ウォーターローディング』ということが言われています。本格的に喉が乾く前に、少しずつ水を補給しながら運動するというわけです。
汗によって水分が消失すると、血液が濃くなり、血流が悪くなって様々な障害を引き起こします。いわゆる脱水症状と呼ばれるもので、虚脱感や局部的な痙攣などの前駆症状からはじまり、吐き気、発熱、歩行困難、全身痙攣、ついには死に至る場合もあります。水分が胃から吸収されるには30分以上かかるので、脱水状態になってから水分をあわてて補給しても遅く、進んだ症状を改善するためには、さらに多くの時間がかかります。ウォーターローディングでは、前駆症状以前の段階で未然に防ごうというわけです。
荷物を背負って歩くトレッキングの運動量は、ゆっくり歩いていても意外に多いものです。水分の消費も多いので休憩のたびに水分を補給するくらいが適当です。もちろんがぶ飲みはよくありません。少し喉を湿らすていどで十分。そのほうが、喉の乾きも抑えられ、結果として水の消費量も少なくて済むことになります。体内からは、水分とともにミネラルも失われますから、スポーツドリンクなどのミネラルを含んだ飲料を補給すれば効果的です。
ふつう、登山では30分ごとに休憩を取るといいと言われますが、これはひとつの目安で、明確に何分といえるものではありません。運動を開始してから、はじめの20分くらいは、むやみに苦しい状態が続き、その山を越えると定常状態と呼ばれる安定期が訪れます。さらにしばらくするともう一度苦しくなり、その山も越えると第二次定常状態という長く続く安定期に入ります。ここまでの段階で休んでしまうと、休み癖がついて先に進めなくなります。歩き始めてから最初の休憩は、三度目に苦しくなったときを目安にするといいでしょう。さらに、その先の休憩は、すでにペースができているはずですから、あまり時間にこだわらず、急な登りにさしかかる前とか、稜線上のビューポイントにさしかかったときなど、適当な間を置いて、節目でとればいいでしょう。
休憩時には、水分補給とともに、折りをみつけて行動食を摂るといいでしょう。とくに朝食が早くて、昼食までの間の行動時間が長いときなどは、空腹を我慢しているうちにいわゆる「シャリバテ(空腹感から体に力が入らなくなってしまうこと)」に陥りやすいので、空腹を感じたときに少しでも行動食を補給しておいたほうが無難です。
・追記
水分補給の必要があるといっても、多くとりすぎればまた逆効果です。大汗をかいた後で冷たい湧き水などに出会うと、思わず喉を鳴らして飲みたくなるところですが、ここでガブ飲みしたら100%バテる結果となります。ぼくは、ことのほか汗かきで、いつも水分補給では悩まされる口ですが、一口で飲む量を少なくするようにしてから、トータルで飲む量が少なくなり、水の飲みすぎでバテることも少なくなりました。また、冷たい飲み物は、喉越しが気持ちよくてついつい度をこしてしまうので、そのまま水を飲むのはグッとこらえて、熱い紅茶を沸かすなどして水分補給するように心がけています。
●ナビゲーション
ナビゲーションもフィールドでの歩行技術の一つといえます。もっともポピュラーなのは、地図とコンパスを使うことですが、よほど特殊なルートをとったり、滅多に人が立ち入らないエリアに踏み込むような場合を除いては、克明な情報が記された登山地図などのエリアマップがあればそれだけで事足ります。ルートを見失うなどの非常時に備えてコンパスは必需品ですが、ベースキャンプから少し出かけるトレッキングなら、マップのみで用が足りるはずです。
登山地図やエリアマップには、ルートの様子(岩場とか水場、ブッシュ、あるいは見晴らしがいい……等々)、所要時間などが細かく記されています。予定を立てるときから、その情報を念頭において、どんなフィールドなのかイメージしておくのがいいでしょう(このとき、コンパスを使って、ルート上のどの位置でどの方向にどんな山が見えるかのように具体的なイメージを描いておくと、後のナビゲーションがやりやすく、しかもその地図遊びと現実とのギャップや近さがそれだけで面白さをかきたててくれたりします)。
問題は、詳細な情報が記された登山地図やエリアマップにない場所をトレッキングしようという場合です。トレッキングにも慣れてくると、「今度は人のあまり立ち入らないエリアに行ってみよう」といった欲が出てくるものです。
そんな場合は、国土地理院発行の5万分の1、2.5万分の1地形図をガイドマップとして使うことになります。これには、ルートの様子や所要時間といったサービス情報は記されていません。この地図を利用する場合は、地図記号からその土地の様子を想像しなければならないわけです。といっても、「等高線の密な部分は傾斜がきつく、疎らな部分は傾斜が緩い」という基本中の基本さえわかっていれば、この地図から土地をイメージすることはそんなに難しくはありません。欄外には、地図記号が記されていますから、それを参照しながら、イメージを描いてみてく。この地図を利用する場合に注意しなければならないのは、測量の年代が古く、情報が現実と異なっていることがあることです。とくに、登山道などの細いルートは破線で記されていますが、現実には廃道になっていることが多々あります。そのへんの情報は、現地の自治体の観光課などに問い合わせて確認したほうがいいでしょう。
●コンパスの使い方
はっきりしたルート上を歩いているときでも、現在どこにいて、目標地点まではどれくらいの距離があるのかということは、ただ地図を見ただけではわかりにくいものです。そんなときにコンパスを使えば、現在位置を割り出すことができます。
まずは、現在いる場所から周囲を眺めて、ランドマークとなるような地形をを特定しまする。まず、その目標に対しコンパスで方位を割り出します。このとき、コンパスの示す北(磁北)と地図上の北(真北)は5−10°の間でズレ(偏差)があるので、それを加減することに気をつけましょう。この偏差値は地図の余白に記されています。さらにもう二カ所目標を定め、コンパスを使ってその方位を割り出します。それぞれのポイントから今割り出した方位と逆に線を引けば、その交点が現在位置となるわけです。
自分の歩いているルートがはっきりしているときは、磁北偏差を気にしなくても、だいたいの方位を割り出すだけで、ルート上の地点を知ることができます。磁北偏差を気にしなければならないのは、ルートを見失い、進むべき方向が微妙な角度で分岐しているような場合です。
余談ですが、キャンプサイトの環境をアセスメントするような場合にも、コンパスはたいへん重宝するものです。例えば、テントのゲートを朝日の登る方向に向けたいとか、谷間のキャンプ場で、どのあたりのサイトが日当たりがいいか見当をつけるような場合です。
●GPS、高度計の活用
ルート上のどの位置にいるのかを特定するときに、コンパスよりもてっとり早くわかる方法があります。それは、高度計を利用すること(高度計単体の製品や、高度計を含めてストップウォッチ機能なども備えた多機能腕時計などが市販されています)。高度計で現在地の高度を確かめ、後はルート上の等高線を辿って、その高度の位置を見ればいいわけです。アップダウンが多くて、同じ高度を何度も横切る場合は、丘や峠を越えた数を勘定に入れればいいわけです。ただし、ほとんどの高度計は気圧をもとに数値を出すものがほとんどなので、低気圧の接近などによる気圧の変化で値が変化します。出発前に、あるいは、高度がはっきりしている場所で、その誤差を調整しておく必要があります。
もう一つ、ナビゲーションとしては画期的な方法が普及しつつあります。それは、グローバルポジショニングシステム(GPS)です。カーナビなどではすでにお馴染みのこのシステムに、最近ではハンディサイズの実用品が現れました。これを使えば、緯度経度の正確な座標による現在位置の特定はもちろん、目標地点までのナビゲーションや自分が辿ってきたルートの軌跡まで表示させることができます。すでに、オフロードモータースポーツでは当たり前の装備になっているし、ハンディGPSの使用を前提としたサバイバルレースも行われています。GPSは、これからのアウトドアシーンをドラスティックに変革するツールといえるでしょう(カーナビのように、優しげな女性の声の誘導するままに歩いたら目的地に到着してしまうというのでは味気ないですけどね……)。
・追記
最近、重さが150gで、片手にすっぽり収まる「ポケナビミニ」というGPSを手に入れました。これは、アウトドア用の各種計測機器を手がける「エンペックス」が、アメリカのアウトドアシーンで大好評を博しているGARMIN社の“etrex”というモデルを日本語化して、使いやすくしたものです。まだフィールドでは使っていませんが、日常、出歩くときに試用してみて、とても期待しています。誤差が6m以内で、方向と距離が表示されるナビゲーションから、歩いた軌跡の表示、中継地点のフォローまで、いろいろなモードが用意されています。オペレーションもとても簡単で、本体は防水仕様。首から下げていても邪魔にならないコンパクトさには脱帽です。また、実際にフィールドで使用したら、レポートしますね。
・GARMIN「e-Trex Vista 日本版」
このコーナーも久しぶりの更新になります。前述のe-Trex(ポケナビ)は、登山、トレッキングはもちろん、オートバイツーリング、シーカヤッキングなどで活躍し、GPSを非常に身近な道具として感じさせてくれるようになりました。わずか150gほどのツールですが、目的地とウェイポイント(経由地)の座標をインプットしてあれば、ルートを設定して、あとはGPSの指示する方向へ進めばいい「ナビゲーションモード」や進行方向の方位を示す「コンパス機能」、そして、メモリーに「軌跡」をログとしてとっておけば、万が一ルートを失ってしまったときに、その軌跡を辿りなおして現状復帰するモードなど、様々な使い方ができ、しかも単三電池2本で20時間駆動と、非常に実用的な装備になりました。
そのe-Trexのインプレッションをお届けしようと思いつつ、2年あまり経つうちに、さらに飛躍的な進歩を遂げています。最近、e-Trexの後継として、同じe-Trexシリーズの最上位機種「Vista日本版」を使い始めました。
e-Trexのコンパクトさそのままに、20万分の一の全国マップを標準装備、2万5千分の一の詳細エリアマップを搭載可能で、電子コンパスと気圧高度計の機能がついています。これまで使用していたe-Trexでも方位はわかりましたが、それは移動している際に移動方向を示すもので、停止するとコンパスとしては使用できませんでした。それがこのVistaでは、停止していても、コンパス機能が使用できるようになり、ルートファインディングに非常に便利になりました。しかも気圧高度計によって、別途高度計を用意する必要もなく、気圧変化をログとして残しているので、天気の変化を予測することにも使えます。
当初は、ベーシックなe-Trexに電子コンパスと気圧高度計機能がついて、地図表示機能はないSummitというモデルにする予定でしたが、ちょうど頃合良く、この6月にこの日本版Vistaがリリースされ、これならオートバイツーリングでも重宝しそうだということで、Vistaを使用することになりました。トレッキング、登山に地図と合わせて使用するなら、「Summit」は、お勧めだと思います。
●最新ハンディGPS
2000年、アメリカ軍はそれまで軍用GPS以外には意図的な誤差が出るようにGPS衛星の電波にスクランブルをかけていましたが、これが解除され、民間用のGPSでも極めて正確な測地が可能となりました。
これを機に、アウトドアでの実用に適うハンディGPSが次々に登場してきました。現在主流はアメリカGARMIN社製のハンディGPSラインナップで、リストバンドに固定する超小型軽量モデルから、単に緯度経度の座標表示と簡易ナビゲーションを行うだけでなく、カラー液晶に詳細な日本地図を搭載し、カーナビゲーション同様の機能を持ったモデルまで、ニーズに合わせたモデルを選ぶことが出来ます。
ぼくは、これまでGARMINの大ベストセラーモデルであるeTrexのベーシックタイプから、MAP21、ハンディGPSで初めて日本地図を搭載したeTrex-Vista日本版、カーナビ同様のオートルーティング(目的地を入力すれば、そこまで自動的にナビゲーションしてくれる)機能を搭載したGPS-V、そしてカラー液晶を搭載し、機能も電池寿命も大幅に伸びたGPSMAP60CSを使用してきました。
現在は、GPSMAP60CSを普段はオートバイのハンドルやカーウインドウにマウントしてカーナビ代わりに使用し、山や海に出かけるときは、10m単位の等高線が入ったTOPO-10mや日本沿岸の海図が収納されたブルーチャートというマップソースを必要に応じてインストールして使用しています。
MAP60CSには電子コンパスや気圧高度計も内臓されていて、上記したコンパスや高度計を別に持つ必要はありません。また、電子コンパスの設定を「真北」に設定すると現在位置の緯度から磁北偏差を計算して真北を指すようにできるので、ルートファインディング時の面倒な計算も必要ありません。
ハンディGPSは、これから日本のアウトドアシーンでも当たり前のツールになっていくと同時に、アウトドアアクティビティの形も変えていくことになるでしょう。
⇒GPSに関しては、近日、詳細なインプレッションやマニュアルを公開します
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